52 稲穂
菊池平野が実りの秋を迎えている。よく見ると稲穂の状態で田んぼの色が一枚一枚違うことに気づく。土壌、水、陽当たり、品種など微妙な違いがあるのだろう。
小学生低学年の時、写生大会があった。元気坊主のHが田んぼをパッチワークのようにいろんな色で描いた。僕らは笑って囃し立てた。学校の周りは稲穂の黄土色と葉っぱの緑色で、どこも同じ色に決まっているのだ。担任の佐々先生は「H、ふざけるんじゃない。」と注意すると思いきや、「おお、こりゃ面白いなぁ。H、田んぼが全部違うなあ。」と褒めた。僕らは不満だった。水色や桃色の田んぼなんて、どこにもないじゃないか。でも今は思う。Hはそう描きたかったのだ。自然を丁寧に見ていたHと佐々先生の教師としての眼差しに感心しながら通勤している。